寂しい人々

ベッドに仰向けになり目を閉じると、一人の男の姿が浮かんだ 居酒屋のカウンターで土下座をし、懇願した男の姿が
私は内心思っていたのかも知れない (あんたは自分の寂しさには気づいているけど、私の寂しさには無関心なんだね)私にできる精一杯が居酒屋でたわいのない時間を過ごし、少しの間だけでも寂しさを忘れさせてあげれたらいい、だった。私に出来る精一杯の思いやりを踏みにじったのだ 私はあんたらの寂しさを癒やすペットじゃない そう言いたかったのかも知れない 自分のことでいっぱいいっぱいの人は人を思いやる余裕なんてないのかも知れない
[あなたは人を救うばかりで救われることがない]と言ってた無神経な女もいた そうかも知れない どうせなら、新坂のような人を救ってあげたなら報われもしただろう、と後悔する
今更ながら思う 一言[卒業したら結婚しよう]そう言ってほしかった 新坂は私がいなくても平気なんだ、と、どこかで思っていたのだろう [俺に黙っていなくなるな！]受話器の向こうから新坂にしては珍しい言葉が聞こえてきた それを言うなら、帰ってきた時に私の顔見て言うべきだろう 素直じゃない… 別れた男と別居中にコーヒーを飲みに誘った 男は椅子にふんぞり返って[寂しいんだろう？]優越感に満ちたその顔に向かって水をかけてやればよかった
寂しい…言葉には出来ない思いが誰にでもある 素直になれない人はたいなものを失う 別れた男には何の未練もない むしろ、もっと早く離れるべきだった、とさえ思っている 神経症は家系だと言われていた時期がある 同じ空気の中にいると空気感染するのだ 家系的には体質が似ていて余計感染しやすいだけに思える 私は無意識のうちに別れた男の空虚な空気に汚染されていた 私は今、何を訴えようとしているのだろう 寂しい動物が記憶から這い出してくるようだ 様々な形をした寂しさを抱いた子供のような人間