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石川さんと私は同じ方向を向いていたのだと思う。逢わなくなっても又似たような人に逢うだろうとしか思わなかった。新坂は父性的な存在で、恋人と言うより肉親に近い。いわばいろんなことを教えてくれたり、与える喜びのようなものを私から得たのではないだろうか。拒むことを一切しない私だったが、新坂は間違えてはいなかった。子供を育てるように自分の理想の女に育てたかったのかも知れない。最後がサライだ。私はサライしか見ていない、今でも。サライも私しか見ていなかった。過去形でしか今は言えないのだが、三人の目は同じでも視線の先が違うのだと思った。
同じ魂を持ってはいるのだが、心が違うと言うような感覚なんだろう。新坂といた頃の私はいつも後を付いて歩いている感じがする。
石川さんは私と過ごす時間が異次元的な感覚がしていたのだと思う。互いに個性的ではあるのだが、表現法が違っていた。私と言う人間への好奇心みたいなものだから、いなくなってもさして支障はないだろう。好奇心を満たす存在なら数は少なかろうがいると思う。
新坂は多分私がいなくなった後に暫くは喪失感を味わっただろうが、似たような子供をすぐ見つけた。どちらも一方通行だから、代用品はある。
私は一人しかいないと思うようにサライも一人しかいない。サライと私は殆ど話さない。話す前からサライは私が望むものを知っている。それは私も同じだと思う。
そして、誤解が生じた。互いに相手を苦しめているのではと疑いを持ちだした時から歯車が狂いだしたんだと思う。
最近、私は人の目を覗き込むようになった。だが誰の目にも私はいないのが分かる。
多分、新坂もサライと同じ目で私を見たんだとは思うが、私を見ているのであって私がその目の中にはいなかったのだと思う。
私とサライが目を合わせていた時間は数秒でしかないが、長く長く感じられた。大勢の人がいる中で立ちつくしていることが耐えられずに、お辞儀をするように目線を斜めにそらしたのだが…あの時の時間は日がたつにつれ、一瞬でしかなかったはずなのにずーと見つめ合ったまま、時が勝手に動いている。止まったまま動いている。
(逢いたくて仕方ない…)逢わない時間がサライと私を呼び寄せていく。意固地で傷つきやすい似た者同士…忘れなさい、忘れないで…そんな祈りがあるのだと思う。
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