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世の中に認められても嬉しかないとでも思っていたのか、新坂にはそう言う欲が全くなかった あったなら私なんかを選んだりはしない 自分の生き方を持っていた新坂に必要だったのは一緒に歩いてくれる人だったんだと思う 新坂は私の事を意固地だと言ってたが、新坂は頑固だ どんなに寂しくても自分らしさを失いたくはなかったんだろうな そんな新坂の前に迷子の野良猫のような女の子が現れた どんな風に私を見ていたのかは憶測でしか語れないのだが、サライの様子から新坂の心理を探る サライは私を水槽の中で自由に戯れる魚に例えていた頃がある [僕の可愛いお魚さん、そこにずっといておくれ] 言葉で聞いた訳じゃないけどサライが仕掛けた罠を見ていたら、多分そうなんだろうな 擬人化と言う言葉があるのだが、私は人間の形をしていても時に野良猫か魚のような性質を漂わせる 寂しがり屋の男に合わせるように姿を変える 孤独な道を歩く旅人がいる 我が儘で頑固で自業自得なんだが、私はそんな人間が好きなんだろう
さすらい癖は幼少期からの私の宿命にさえ思える 様々な人から人へと渡り歩き落ち着く暇も無かったんだが、今では運命に弄ばれた過去を懐かしくさえ思える その時に自然と生きる為の知恵として様々な衣装を纏ったのかも知れない その事が私に固定観念を抱かせなかったのだとも思われる 新坂やサライは気配で私の中に意識と言う大地がない事を感じたのかも知れない 精神への道には道しるべはない 全くの未知数でしかない 約束のない未来は不安と孤独でしかない 普通の人間なら予め予測された道を歩くだろうが、極たまに独自の道を歩く野獣がいる そんな危険な道を歩いてくれるような物好きはいない だからだろうな[俺はこの道を行く 君に強制はしない]新坂はいつも行動の人だった 私はそんな新坂の後を遠慮がちに付いて歩いていた [ついておいでよ]とは言われなかったが、私は黙って新坂の背中を見ながらどんな未来に行こうと構わないと思っていたのかも知れない 離れて歩く私にそっと手を差し出した時の新坂の心境を思う時寂しさと不
安があったのではと思える (ついておいでよ)新坂はいつも気持ちを態度でしか現さなかった 記憶の中にある新坂の行動は矛盾のない真摯な姿勢に貫かれている
そうだね、今なら新坂が思っていたことが分かる 寂しい道を歩いていく僕だけど君には決して悲しい思いはさせないから… 新坂、涙が止まらない 新坂、私一人暮らし始めたんだよ 一人になったら新坂やサライの生き方が前より鮮明に見えるようになった 寂しがり屋の私だったね (いつも側にいて!)そんな我が儘を抱いていた 今は一人でいても平気になっている 雨の音を聞きながら心の中で大切な人を抱きしめていられる強さを獲得したみたいだ 朝起きると真っ先にサライに電話を入れる(サライそこにいる?)いるんだと分かるだけで安心してしまう 電話がかからない時の私は子供の頃の私になっている 土砂降りの雨の中を(サライ…サライ…サライ…)無言の叫びが胸を締め付けていくみたぃだ 時を超えて新坂あなたが歩いている道を無言で歩いている人に逢ったんだ
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