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幼い日の出来事を口にする事すら出来ず見知らぬ地で私は別人を装った。誰も私の過去を知らない地では私は過去から自由になれた。だが、今ではその過去こそが私の大切な部分だと思っている。何ら恥じる事は無かったのだ。 街でブロンズ像のように無傷の美しい女性を見ると不思議に思った。私がまだ20歳の頃だと思う。 何故彼女は傷一つ無く生きて来れたのか、私には不思議だった。 保護者、人間にはそう言う人がいて守られ育つ。そんな当たり前の感覚が私には無かった。誰も守ってくれないのが私の当たり前になっていた。無邪気な人を見ると羨ましいと言う気持ちよりまるで過去と言うもののない存在にも映った。私にとっての過去は隠さなくてはならないものだったのだろう。あっけらかんと自分を素直に語れる。闇の中にしか過去を持たない私にとって、語れる過去は過去では無く思い出だ。 今更自分の過去を隠す気はないがやはり語る事は困難に思える。言葉にして語れはしない。語ろうとも思わなくなった。その大地の事は私一人の胸のうちで大事にしておきたい。その大地から育った花だけでいい。岩だらけのゴツゴツした固
い大地に根ざした一粒の種。生まれ落ちた大地から水を求め光を求め屈折を繰り返しながら這いずり廻った道が今は遠い日の私でしかない。今私が立っているこの大地から私はただ空を目指し伸びて行かんとする。最早誰にも手折られはしない。例え手折られようと大地深く根ざした命は何度でも芽吹くだろう。 いつの間にか恐れを知らぬ大樹のように悠然とそびえる。多少の傷も年月を思い出しこそすれ恥じる事はないのだ。 才能とは何をいうのだろう。才能も様々。 今では言える事が一つある。生き抜く力それこそが最高の才能だと私は言える。
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