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[人は見えているのに自分は見えていない]
具体的にはどう言う意味なのかは分からない。人と接する時、自分の行為が他人に如何なる影響を与えているのかで自分が見えてくる。ことさら自分を見ずとも他者を通し感じる[私]がそこにいる。
人は鏡と言われる由縁は行為の中に自分の人間性を垣間見るからだろう。
忘れられない人がいる。(あれは誰だったんだろう)
思い出すのは背中ばかりだった。その懐かしい光景がある人との思い出であったことも忘れ、ただ光景だけが鮮明に残っている。
あることがきっかけでその人が(誰)であったのかに気づいた。顔さえ覚えていないのだが、ふっとした瞬間に仕草だけが蘇る。
一つの仕草が波紋を描くように、一つ、一つと思い出が蘇ってきた。
だが、最後の瞬間になると悲しみに変わる。
同じ雪景色の中に二つの異なる思い出がある。いい思い出だけが心に残る訳ではない。幸せと悲しみは背中合わせにあるのだろう。
嫌なことは切り捨ててしまいたいのだが、出来ない。
ダメージを与えるには十分だったろう。真実は違っていたのだが、彼には言い訳の仕様がない状況だった。
好きな人が別の男と雪道を前から歩いて来る。それだけで別れる理由は十分に思える。
それでも私は思った(本当に好きなら私を引き戻して)
厚かましい女だ。
あれほど残酷なことをしながら、どんな私でも許されたいと思っていたのかも知れない。
だが、許せることと許せないことがある。いくら心から愛していても許せない行為がある。
二人だけの暗黙の行為を見知らぬ人と共有された時かも知れない。
私と彼を結んでいた暗黙の約束があったのだろうとしか言えない。ただそこに込められた思いに食い違いがあった。
失った後で、取り返しの付かないことをしてしまったのだとは感じていた。
それでも私は愛は簡単には終わらないのだと、厚かましい気持ちがあったのだろう。
追いかけても来ない、引き止めもしない彼を(愛してはいなかったのだ)と思った私は大いなる勘違いをしていた。
愛していたから許せない行為がある。
見えない絆がある。音もたてずに言葉にもならず、傍らを過ぎて行った時に、サヨナラ…と言ったのかも知れない。
言葉で聞いていないのだからまだ終わってはいないと信じたいのだが、心は無言になるほど固い決意をする。
無言の理由の意味を改めて聞くまでもない。私がした行為は彼を通して語られている。
(君が僕にしたことが全てだ)
私の心には大切な人しか入れない空間がある。誰にでもあるのだろう。
そこに違う人間がいることを拒む心がある。まるで愛する人の指定席のように。
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