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病院に勤めていた頃、私は患者さんに逢うのが楽しみだった。私より年配の方を可愛いと言うのは失礼なのだろうか?
幾つになっても可愛い人がいる。愛情なんかではない。ただ心を開いて接しただけに思う。一緒に過ごす時間が楽しいものであって欲しいとだけ願っていた。
笑顔は私へのプレゼントだった。
死を目前に控えた人の喜びは何だろう。苦しみを取り除く事は出来ない。死から逃れる事は誰にも出来ない。
死の恐怖に打ち勝つ事は出来る。愛は死より強いのだと思う。私が今でも忘れず思い出す患者さんがいらっしゃる。
助かる見込みのない状態にあった彼を私は黙って穏やかな表情で見つめ、頷いた。
逃れ得ぬ定めなら、優しき心で見送りたいと願った。私は自分の瞳に[あなたを愛しています]
無言の祈りを込め、両の手を胸の前で組んだ。
言葉を超えた関係がある。最後に人が願う願いが一番美しい。残念ながら人は死の間際になるまで気付かすに過ごす。
心を開くのは優しく受け止めてくれる心があるから。それを愛とは言わないのかも知れない。多分、許しなのかも知れない。
(もう、歩けない…)言葉にならない無言の瞳に私は頷くしかない。
歩かなくていい…
翼を広げるように命を受け止めるような感覚かも知れない。死に向かうのでは無く、愛する人の胸に飛び込んで行けるなら人は死さえも喜んで受け入れる。逃れ得ぬ定めなら愛する人の胸に抱かれて去って行きたいと願う。私はあなたを愛しています。
あの時の私の目には彼しか映ってなかったのだと思う。
今、私の前にいるあなただけを心から愛しています。
愛は幻想かも知れない。けれどそれで人の心が穏やかになれば幻想だっていいじゃないか。
私はそう思うんだ。真実は苦しみを和らげる効果があるかないかだけなんだ。
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