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車は猛スピードで走り続ける。
私は眠ったままだ。何処からか叫びのような声がする。
[目を覚ましなさい!そのままだと死んでしまうのよ!]
だが、私の瞼は手でこじ開けても、何も見えてはいない。
恐怖が私を襲う。
私の意志とは関わり無く車のスピードは落ちる気配はない。声にならない恐怖だけが全身を狂ったように駆けまわる。
車の中で私は気を失ったのだろう。気がついたら見知らぬ地に私はいた。
そこがどこなのか分からない。私は車を探した。
確か、車で来たはずなのだが、車は見当たらない。
車が無くては帰れない。
夢はいつもここで終わっていた。何度も繰り返しみた夢も何時しか見なくなった。
無意識に歩いてきた道がある。地図には記されていない場所へ導く存在がいる。人間の意志を踏みにじるような強引さを持って、無意識と言う車に乗せられ、恐怖は和らげられる。
誰が好き好んでこんな道を歩くものか。荒涼とした地に佇み、過ぎ去った景色を思う。猛スピードで走り続けた人生の中から微かに見えた景色。否、景色ではない。光景だ。
幾人かの懐かしい人の顔がよぎる。
振り返り手を伸ばしても、思い出の中で佇んでいる。
口元が微かに動いているのだが、声は聞こえない。
(まんが…)
切ない声が途切れがちに弱々しく闇に消える。
[行かないで!]泣き叫ぶ私の手を見えない存在が引き寄せる。如何なる愛を持ってしても引き離せない力が無意識と言う暗黒から私を呼ぶ。抗えない力の前で人間としての無力さと苦しみから、天を仰ぎ絶叫する。
私はあなたの奴隷に過ぎないのか!人間として愛されたいとだけ願った私の思いさえも道具のように用いる。
あまりにも残酷な、非人間的ともなじりたくなる運命を歩かざるを得ない者がいる。それは彼らの意志ではない。
彼らは哀れな奴隷なのだ。誇り高き奴隷はただ真実と言う揺るがぬ愛の前でこうべ(頭)を垂れるしかない。諦めと誇りを胸に秘め深々と大地に接吻をする。
[神よ、あなたのご意志のままに]煮るなり焼くなり御随に。諦めるしかない定めがある。
生贄は私の心臓とも言える(愛した人)
人間が真実の愛を貫く時、地獄の苦しみを味わう。
捧げた覚えはない。奪われたのだ。残虐非道とも言える高慢な意志を持つ見えない存在に。
今更、帰れはしない過去がある。
過去から現在に連なる道を振り向くと、不屈な意志を持った強かな神とも悪魔とも見紛う姿が、運命の力を借り私を誘っていたのだと知る。人間としての苦しみの全てを飲み干すまでは許されない過酷な定めがある。
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