火の鳥

愛することの意味が分からなくなると何故か、手塚先生の火の鳥のタマミを思い出してしまう。先生はどんな気持ちでタマミを創造したのだろうかと。タマミは愛する人の理想の形になるのですよね。ある意味都合のいい女になりかねないタイプなのですが、私はそうは思わないのです。むしろそう言うタイプの女とは真反対で、タマミほど意志の強い女はいないと思います。彼女は真人の恋人でした。恋人と言うよりひとつの愛の存在のようでした。先生が伝えたかった真の意味はなんだったのでしょう。私は感じています。先生が言いたかったことを。けれど言葉にならないのです。感じるとしか語れない。タマミと真人の間に流れる静かな水の流れを。
音もなく音を描く。言葉に置き換えると矛盾したような感覚であり、有り得ない現象に思われます。音が形を描く訳はないのですから。例え描いたとしても、瞬間でしかありません。儚さのようなものをタマミと真人に託したのではありませんか。その時の互いの心に合わせるかのような鼓動を、です。私がタマミを好きな理由はタマミは真人の心が美しいことを知っているのです。真人でなくても、真人の心を持った人間ならタマミは愛していたと思います。タマミと言う女性はただ美しい魂と心をあいするだけなのです。先生の憧れであり、先生自身がタマミのような魂と心を持っていたのではないのですか。
心に形はありません。傷つきやすく、いかようにも姿を変えてゆきます。けれど心はひとりでは鼓動しないのですよね。太陽と月のような関係においてしか存在を確かめられないものです。私たち人間は他者を鏡に自身を知ります。心が鏡なのです。タマミは無色透明な心を持った存在です。その彼女が真人を愛した理由は真人が無色透明な偏見などを持たない人間だったからです。何の偏見もなく純粋に人を見る人間はいません。
先生は感性と言う神聖な存在を知らせたかったのではないのですか。私は先生が望んでいた人を時折見かけます。ですがその存在を言葉では説明は出来ないのです。形が無く、捕まえどころがないからです。あらゆるものに姿を変える存在は何でしょうか。私たち人間は死んだら土に帰ります。土に溶け込み木々へと姿を変えるのです。命はただ巡っているだけです。巡っているだけなら何ら変化はもたらさないのではないのですか。それなら人間の意識も精神も必要なくなります。意味を失うのです。話を最初に戻します。タマミと真人の間に存在したものが神に近い、感性であり神聖なものだったのではないのですか。人間はこれほどの高度な精神を持ち互いを愛しうる存在なのだと。美しい心で創造されたものは美しくなるのです。真人の心がタマミを創造したのです。先生は創造主のように様々なキャラクターを作られました。先生の心が生み出した存在です。私はタマミとピノコが一番好きです。二人とも共通しているところがあります。心から人なりを愛しています。傷つくことを恐れることもなく、極自然にです。私たち人間は何故こうも縄張り意識が強いのでしょう。土でさ
え私の片割れな変わるのです。人間でいる時間は僅かです。心と言う聖なる領域をもって過ごせるのは僅かです。僅かな時を何故人間は憎しみで汚すのでしょう。
考えてみたら私たち人間は川や山などの自然に愛されていたのです。無意識のうにに。
これは私の感覚です。私は人間には愛の器が必要に思われます。先生がキャラクターに注いだようにです。私には私の愛の姿を見ることはできません。形がないのですから。器なり衣装がなくては愛の存在は明かせないのだと感じています。私自身の意志より、強い愛を持った存在を尊重します。それが私です。
タマミと真人は愛の例えに過ぎないのですね。さっきまでどしゃ降りの雨でした。悲しくて仕方ありませんでした。何かを愛したいと言う私の心の流れがせき止められ雨になり降り注いでいるかのように降り続いていました。今は小雨です。帰ります。愛がない地球はまるで塒のない孤児に思えます。