家族

新坂は私の両面を把握していたね 他の人は私の片方の面だけ受け入れていたんだと思う 私が突然怒ると[君は扱いにくい]としか言わなかった 新坂は無言で私の両面を理解していたから私が怒るようなことをしなかっただけなんだ 遅まきながら改めて新坂の眼力に恐れ入ってる 他の人には私の強い面は見えていなかったか、若しくは見えないふりをしていたかだろう 自分の弱さが素直に出せたのは両方の私を新坂は受け入れていたからなんだね だからかな、新坂の前では迷子の子猫でいてもプライドが傷つくことはなかったんだ 強い人ほどもうひとつの面に弱さを隠し持っている 弱い人の立場もよく分かるんだと思う 何となくそう言う人って人間らしいなぁって最近思う 新坂は私には決して弱さを見せたりはしなかったね それがとても寂しい 新坂の代わりに亀沢が弱さを見せてくれていたみたいだ [まんがちょっとだけいい?]遠慮がちなんだけど子供のように無邪気な顔が私の膝で安らいでいた 男とか女なんてどうでもよかった あ
りのままの姿を私に見せてくれてるだけでよかったんだ でも亀沢は新坂と私が別れた後はせがまなくなっていた 同じ私なのに 亀沢もあの時点で変わった トライアングルは新坂と別れた時に自然消滅してしまった 三人で作っていた秘密の世界がある
新坂と私、私と亀沢、亀沢と新坂 家族ってあの頃のような関係を言うんだろうね
札幌を思い出すといつも(札幌西２４条北５丁目 松原荘 ５号室)が鮮明に記憶に残っていた 階段の位置や共同洗面所 アパートなのに門限があって、１１時を過ぎたら鍵がかかっていた そう言う時には誰かの窓に小石を投げて開けてもらっていたね 思い出し始めると可笑しくてたまらない出来事がいっぱいあったんだ いろんなことみんな笑って許しあってたけどマナーはみんな守っていた 暗黙のマナーが極自然に芽生えていた 思いやりと一緒に 新坂、涙がこぼれて止まらない

芸術家の欲望

[芸術家は家族を不幸にする]芸術家に対する反発も加わっての言葉だったんだろう 幸せな人間に幸せは描けない…そんな迷信が芸術家にはあるのかも知れない いやいやゴッホくらいになると狂気に近い鋭い感性を備えていたが故に一般には理解能不可能な世界で孤独に苛まされた結果なのだろう 私は幼少期が悲惨だったが故に空想好きな人間になってしまったが、好きで空想好きになった訳じゃない 悲惨な現実に敗北するのが悔しかっただけの話でそう言う現実から心だけでも解放されたかった だけどこれも限度がある いくら空想好きではあってもしなくてもいい苦労まで背負いこむなんてのは馬鹿としか言いようがない どっかで仕方ないとは思ってんだが、せっかくだから楽しみたいと言う心理から生まれた空想癖 他者から見たら私は脳天気な性格に映ってんだろうなぁ あ～そう言えば近所に不幸を一心に背負ったような人がいた あの頃の私はお人好しだったんだろう あれこれ心配しお節介をやいていたんだが、彼女は最後まで悲惨だった 最後は高校生二人乗りのバイクに跳ね
られ死んだと聞かされた 今思うに彼女は不幸の中に安住していただけなんだって分かる 逃げられるのに逃げないってのは感性が鈍くなってるか、マゾっけのある人だろうね やっぱね 自分が幸せでなきゃ意味ないが、芸術家の不幸は彼の宿命みたいなものだ 脳天気な私はアホな人間を救うどころか、からかって生きてる気がする

おかえりなさい

不思議なもんだ サライといると新坂と過ごしていた頃の私が鮮明に浮かび上がってくる ちっちゃな子供だったり子猫のような私が いつも新坂の後を遠慮がちに付いて歩いていた 手招きされると子供のような信頼で駆け寄っていた 自分で言うのも何だが(なんて可愛いんだろう)愛おしくてつい抱きしめたくなる 自立しなきゃ！そう思うのだが、捨てたくない自分がいる (あなたがいない世界に生きてる意味はないの…) 片方の翼では飛べない鳥のように私は愛する人を探す 多分、あっちこっちさまよっていたのは無くした片方の翼を探していたんだ 空に焦がれて鳥になりたいと願っていた私だが人間に生まれた私が飛ぶのは無理だ 境界線のない空を自由に飛ぶ鳥が羨ましかったんだろう 孤独と言う世界に佇む私にとって孤独は牢獄に等しかったのかも知れない 私は相変わらず孤独なんだがサライを思う時解放された心境を味わう あてもなくさ迷うのでは無く愛する人へと思いが溢れるように流れていく時私は自由なんだと感じている 空を飛ぶ鳥にはな
れなかったかも知れないのだが広大な世界へと向かう通路がある 愛と言う見えない絆に導かれ盲目の幼子が私の中で今も佇んでいる 愛より素晴らしいものはこの世界にはない 今なら迷いも無く確信をもって言い切れる だから全ての人に伝えたい 愛さずにはいられない存在になりなさい ただ謙虚になりさえすればよいのだから あの頃の私は新坂以外の人から見たら白知に見えていたのかも知れない 世間知らずの怖いもの知らずで無鉄砲 そのものの価値を知る人間は同類だと最近感じている 新坂オマケを付けてあげるやっぱり新坂は物好きだね 不思議な人だった とても魅力的で威圧感が無く空気のように私を包み込んでくれていた

心を感じて

閉塞感が人の心を蝕んでいく あるいは孤独感かな あ～もうだめだ！耐えられなくなり以前勤めていた施設へとチャリをこいだ 辞めてから何となく行き辛くて避けていたのだが、やっぱり懐かしい 心をオープンに出来る人の側にいるだけで勝手にエネルギーが自由に行き来する 心を開いてくれる人がいるだけで酸欠状態から脱出できるもんだよ 言っとくが心は強引に開けようたって開くもんじゃない 極自然に開かれるから気持ちがいいんだ
最近気づいたんだが心はとても弱くて繊細なものだと思う 虚勢を張ったりするのは嫌いなんだが、そう言うことも必要があってのこと 虚勢を張らなきゃならない場所や人はなるべく避けてはいるが、やむを得ず行かなくてはならない時がある 馬鹿馬鹿しいだけなんだが世の中にはそんな人間がうじゃうじゃいる 虚勢を張れば張るほど本来の自分から遠ざかっていくだけなんだが 多分、私が役者と言う形を取ったのは衣装のように脱ぎ着ができるからなんだ 本来はスッポンボンの裸んぼう ちっちゃな子供から言われるくらいだから無防備な時の私は裸んぼうなんだろう しかし、子供の感受性は鋭い 見た目ではなく感じたことを口にする それが本質をズバリ言い当てている 装飾品を全く身につけてない心はまさに裸んぼう たまに風邪をひいたりする

心

[洗うとこないね]独り言のように言うのが私の癖みたい [新しいの使えば]サライもボソッと言う サライだからこそ出来る会話がある 心はいつも独り言のように呟く サライは自閉症気味で私は開けっぴろげ どっちもいささか間が抜けた感が無きにしも非ず
同じ心なのに全く違う 心は子供のままなんだが守り方が違うのかも 最初にサライに会った時あまりに無邪気過ぎて知恵遅れと思ったくらい純粋なんだね 私もサライのこと言えんなぁ 駅のホームで電車を待っていたら子供が親しげに寄ってきたことがある 今でもガキがやたら寄ってくるんだが ガキは人を思いやる心までには育ってねぇから疲れる 心が綺麗で人の立場にまで立てるようになったら心も成長ちゅうか、逞しくなってんだろうね そこまで行く間に薄汚れてしまうのが殆どだけどね 守り方が悪いちゅうか弱いかのどっちかなんだろうが サライは私にしか笑顔は見せないのに私はあっちこっちに笑顔振りまきまくっている 私しゃ知ってんだ 魂から咲く笑顔は特別なんだって だからそこら中に振りまいている笑顔は安っぽい愛想笑いに過ぎないのだが、私の笑顔は年期が入ってるから素人には見破れないだけ これで大概の男は落ちる 但し地獄へな 美しい心を守るには時には悪魔にならなきゃ汚れるって私は知ってんだ 魂は売るって言うが心
は汚れるなんだよね 案外昔の人は賢かったんだろう 守らなきゃならんものがきちんと分かっていると人間として一本筋が通るんじゃないかな 私しゃ魂も売らん！心も汚さん！
だからこの現実には馴染めないんだろうなぁ どいつもこいつも魂は売るわ、心は薄汚いわでやってられん サライとしか通わない心は時々心細くなる サライの姿が見えなくなると迷子の猫のようになる 雨が降る夜の街をサライの名を呼びながら闇雲に走ってる私がいる