１００万人の天才

深海には９９９９９人の天才が眠っている。人間に知られる事のなかった魂。陸迄泳ぎ着き、人間の目に留まった者だけが認められる。なんて、思うと人間は傲慢な生物にしか見えない。陸に這上がる迄の年月を思うと苦難の連続でしかない。輝かしい栄光も死後、もっともらしく名付けられ、人々の愚かな憧れになる。 苦難は要らないが栄光だけ頂けないでしょうか。 皮肉も使い方一つで心臓をえぐる事も出来る。 上っ面ばかり舐めているのも構わない。考えても解決しない問題は人生には山程ある。見て見ぬ振りしているうちに、山崩れ。なんてね。いいとこ取りがずる賢い人間のおはこ。深海に生まれ陸迄泳ぎ着けなかった者のひがみ、なのかも知れない。彼等も憧れたであろう。遥か彼方の陸地を。進化の途上で力尽き、水底に消えて行った。ただ一人、陸に辿り着いた天才は海底に眠る仲間を忘れてはいない。彼等が過酷な宿命に耐え得るのも、案外、友情かも知れない。暗黙の了解があらゆる生命を束ねている。連鎖の鎖から、逃れられる者はいない。突然現れたかに見えても、よくよく見れば細い糸が見える。