情緒の正体

欠点だったのか、個性だったのか。私には情緒らしきものがない。情緒不安定で苦しむのでは無く、無いが故の苦しみで、特に痛感するのは葬式、結婚式の時。どんな顔すればいいのか戸惑う。感傷的になれず、冷たい人間だと悲しい気分にもなった。誰とも共感出来ないのも寂しい。共感は出来ないが、相手の気持ちは解る。私とは異なるのではあるが、冷静に感じ、何が私に出来るかを考え、手をさしのべる事は出来る。情緒はないかも知れないが思いやりだけは知ってる。むしろ最近情緒と言う物が未知の生物に対しては冷淡なのが気にかかる。情緒豊かな人間に暖かみを感じるらしいのだが、私はうっとうしい。以前、私の事を、ムードメーカーと言った人がいる。自分を知るにつれ、何をさして言っていたのかが解る。私には情緒はないが、瞬間に異次元に入り込んだ様な不思議な空間を作る癖がある。自意識の強い人間には通用しないが、暫し現実を忘れ、魔可不思議な世界を味わう。アヘン窟と言っていた知人は私の所に入り浸って帰ろうとはしない。私にすれば、知人が望んでいる世界を再現したに過ぎない。居心地の良い世界。空間を生み出すのは芸術的な技とも言える。
未知の世界への憧れ、人に知られていない自分だけの世界で孤独になった心。ほんの束の間ではあるが、私自身を消しさり孤独な魂を包む空気になる。多分、誰もが心の中に持っている世界、誰とも共有出来ない世界。個性を育む寂しい世界。何者でもない自己確認の瞬間。出会いの度に新たな世界への冒険がある。そこに棲み続ける事はないが、チョツとした旅にはなる。情緒の欠落も悪くはない。さすらい人の様に小さな宇宙を巡るのも楽しい。