余計なお世話

理解出来ないストーリがある。死にたいと願う人間が人から死んだらいかん！と説得されて、自殺を思い止まる。死の決意がそんなに簡単に変わるものかな。生きる意味は他人から与えられるものではない。 私は弟がどんな心境で死んでいったのかは分からないのだが、亡くなった朝の弟の様子からして、普通に彼が決めた道を歩いた気がする。誰も起きていない早朝に犬を連れ散歩に出た時は彼はまだ死ぬ気は無かったんだろう。道なりに歩いていたら一本の手頃な木が見えたんだろうな。 生きる事に執着しなくなると、アッサリしたものがある。人生は何の味もしなくなる。辛いだの苦いだの言ってるうちはまだ人生を味わっている。他人が価値を与える事は出来ない。本人の味わい方がある。弟には人生は何の味もしなくなったのか。私にもそんな時がある。苦しいと感じている時はまだ救われる。苦しみと戦う事が出来る。虚無感とは戦いようがないのだから。

何時か来た道

ゲーテいわく、皆、自分の負い目の回りをめぐれ、だな。私の経験から私を切り離し私を語る事は出来ない。最悪の生まれ方をした。長い人生には様々な事が待ち受けている。地獄から旅立った者もいるだろう。天国から地獄まで人生は様々な経験を携え、人々を待ち受けている。不幸を嘆く者も、そこに安住する者も私は嫌い。昔、見るも聞くも哀れな女がいた。まるでこの世界に不幸を探しに来たような女だ。最初は哀れに思い、手をさしのべていたが、今、思うに不必要だった。最後まで不幸を絵に描いたような人生だが、戦う事を諦めた人間は不幸を通り越して、今頃は天国で幸せに暮らしているだろう。陰気で、辺りに不幸な空気をばらまいていた。同情はすれど戦わない人はやはり嫌いだ。それが宿命であっても、辛辣な運命と戦う人を愛する。又、ゲーテを引用するなら[ここで今これ以上骨を折ってもむだだ！バラならば花咲くだろう]ゲーテは好きではないが、言わんとしている事には納得できる。[友よ、ルンペンはルンペンだ。車に乗ったって、馬に乗ったって、徒歩だって。だから、ルンペンを信じるな。ルンペンの懺悔なんか信じるな。人生は甘
くは出来ていない。何でも美味く食べる工夫をするしかない。しかし、これとて私が人生を極僅かでも愛している限りにおいてだ。愛さなくなったら、私は運命の差し出す不味い料理を食べようとは思わないだろう。

偽り

履歴書の動機の欄に私は素直に気持ちを書けない。[生きる為に]単純な事なのだが、命を人質に捕られ心まで無くしそうで怖いのだ。何時も覚悟しながら生きていて疲れるのだが、限界に来ると死ぬ覚悟で逆らう時がある。後悔もするが、それ以上に安堵もする。何とか死ぬまで生きていけたらいいか。私の心は死を意識した時が最も力を発揮する。自由に空を飛ぶ鳥が梢で翼を休めるように。私は日々の終りに来る眠りと命の終りに来る死を安らぎとして生きている。感じる事は苦痛を伴うが、同時にそれが喜びでもある。私だけが知る真実がある。神に誓ってではない。私の心が全てを知ってる。嘘も真実もごったにして、心は全てを蓄えている。

自意識

君は私の憧れだった。今では愚かとしかいいようのないものに憧れた。自分にないものに人は憧れる。君はどんな時でも自分のペースを崩す事は無かった。そんな君が私は羨ましかった。でも、今は訂正している。君の書いたスケジュールはまるでロボットのようにぎこちない。タイマーのかかった君は決まった時間に決まった動作を繰り返す。私は何時か君に飽きてしまった。君といると私の心は次第に何も感じなくなった。次に君がやる事はスケジュールに書かれている。私は君のスケジュールを見て、思ったものだ。君には春や夏、雨の日や、晴れがないんだ。
君には傘も私もいらないのだろうね。 私はもう、君には憧れない。自意識の意味を知ったから。私の寂しさや虚しさよりも、君の世界は狭く、息苦しいばかりだから。

片隅にある世界

世の中は私の心の片隅に小さくある。私は生活の糧を得る為に片隅にある世の中に行く。狭い、息苦しい小さな畑で僅かの糧を得ると、解き放たれた鳥のように私の世界に帰る。寂しいのだが、自由でいたい心がある。何時も自由だと自由の喜びが奪われる。そんなものだろう。有り難みは矛盾する。このまま果てしない空の彼方に飛んで行けたらとも思うが、翼を広げ羽ばたく時、大地は私の視界の下で小さく見える。地球にいる私は大地に重力で繋ぎ停められていても、心は自由に羽ばたく。奪われる度に自由になる時の喜びがある。私の最後の故郷は死の中にある。