方向音痴

免許切り換えからまだ五年しかたってない。五年前の事が随分昔の様に思える。何度も切り換えには行っていた、にも、関わらず、五年前は違っていた。 カルチャーショツク、と、しか言いようがない出来事に見舞われ、自己崩壊の最中。 方向音痴が何故あるのか。 位置感覚がない状態なんだ。積み重ねた人生の全てを白紙に返したのには理由がある。 社会の中の一員としての自己に疑問を感じた。 全てを失った。あの時は、そうとしか、思えなかった。 車で町を走っていると、嫌でも、働く人が目につく。何とも言えない居心地の悪さを覚えた。 死ぬに死ねない狭間で狂いそうになる自分に怯えてもいた。狂人と言う、レッテルをつけてくれたら、どんなに楽だろう。 まさに名無しのごんべーだ。 その時、方向音痴がどういう物か知った気がした。 自分がわからない事であり、位置確認が出来ない、状態を言うのだと。 自分を取り戻してからの記憶は鮮やかだ。見る物全てが新鮮であったし、学ぶ事柄は私に良く似合う衣装に変わって行く。 自己崩壊以前に学んだ
あらゆる物も無駄ではなかった。 今にして思えばそれなりに頑張って生きていた、と言える。ただ方向が間違っていただけ。 思えば、あらゆる学びは私が人間になる為の物だった。 原点を忘れ生きてきた報いは、思いも寄らない形で私をつき崩した。振り返るとひた向きに生きた私がいる。 これ以上の私はないとさえ言える。職を点てんと変え、原点であった私を他者に見た時、改めて、一途に生きる事の素晴らしさを知った気がした。 今日のベストを生きる。方向音痴は辛い。迷子になるのは寂しい。何が寂しいって、自分を見失う事が一番寂しい。

出来る事からかたずけるか

足を痛めてから外出もままならない。暇！読書でもすればいいのだが、同じ事していると、新鮮味が薄れるのよね。 免許切り換えまで、まだ時間があるが、行く事にした。暇になると、何かする事ないか、探しだす。集中力は長く続かない。効率良く覚えたかったら、適度に体動かせ。机にかじりついて、勉強するのもいいが、バランス悪いでないの。あんたが頭だけ使ってる間、体は退屈してる。 あんたの脳味噌支えているのは体であります。良く言うでしょ。ガリ勉って。体がガリガリに衰えたのが、ガリ勉。人間は頭だけで生きている訳じゃないの。解ったか？ 暇だから、何か用事見付けてやる。これ、後で役に立つ事もある。立たなくても、気がかりはさっさっとかたずける。 小さな気がかりも積もれば山となる。身軽が一番いい訳よ。

夏の朝

日中は暑くて、ウンザリするが明けがたは心地良い。暫く、ボケーとした時間を楽しむ。ヒンヤリした空気が何ともいえない。起きている人もいない。たまに新聞配達の音がするが、それ以外は何も聞こえない。気がつくと時間が過ぎている。 最近、これが癖になっている。 明けがたの空気は昨日と同じ物には思えない。 早起きの人が何処かで小さな遠慮がちの音をたてている。それも心地良い。騒音が当たり前になっても、明けがただけは、みな、配慮しているのだろう。 ささやかな思いやりなんだが、そのくらいでいい。少しと言うのが、嬉しい。

何故、ヘレン、ケラーなのか。

ヘレン以外にも人間はいた、訳なんだが、何故、彼女だったのか。偶然の選択ではなかった。彼女が最も私にとって、言い方は悪いのだが、都合が良かった。何故なら、聞きたくない事は聴かずに済む。見たくない事は見なくていい訳で、恵まれた環境に生まれていたら、違う人間を選んでいた。本能的に心は生きて行くのに必要な物を探す力がある。 生まれたての赤ん坊を見てたら、解る。この現実は知らないが、生きる知恵を持っているのが解る。心は人間が生きて行く為の必要を求める。なければ勝手に作る。 こんな所が神様に似ているのかも知れない。 壊れた心は材料不足なんだ。 貴方の心を見てみたら解るんじゃないかな。 最近見えない人が多い。 ヘレンは外の世界を見る事はできなかったが、自身の中に外部と等しい世界をもっていた。私がヘレンを美しいと思ったのは心の美しさだったのだと思う。偏見を持たないヘレンは命に対して優しい人間だった。私が読んだ限りでのヘレンではあるが。 私は見たくないものは見ない。聞きたくない物は聞かない。 自由意思で、外部の世界を消す事も出来る
訳だ。 私におかまいなしに外部の世界は存在するのだが、人間の不思議は意識しないと見えてないに等しいんだな。

心の世界

馬鹿じゃないの。多分ね、言われるの解ってるんだが、心に世界があるのは本当なんだ。ただ見えないだけ、心は波長で世界を感じている。勘のいい人だったら、人の心を見抜く目をもっている。無意識であれ、心が語りかけていると言う事実は変わらない。 人間って、単純じゃない。単純だけど、複雑な編集技術をもっている。 本能にもとずき、外部から素材を集める力がある。人間になるのに必要な素材を探す知恵の様な物があるのだが、外部にないと、勝手に作る事も出来る。 不思議な世界なんだが、余り、人間には知られてないみたい。 だからかな、孤独になる。心は人間の作った記号で語る事はない。