優しさと強さ

ただ強い人間に憧れていた。本当の強さも知らず、人に勝る事しか考えてなかった頃の私を思い返す度に苦笑する。支配と権力。 何と無知であった事か。私の背後に多くの過ちが立ち、うっすら笑みを浮かべる。私も過ぎ去った時の中に佇む無知と無垢の間に生まれた人間を思う。どちらに行こうか、右に左に揺らめきながら結局右と左の真ん中で私は、真っ直ぐ前を見つめている。そこにはあてどない未来が眩い光になる。私の影は背後に細く長く延び、そこを辿れば幼い日の暗い森にたどり着く。だが、私はもう帰る事はないであろう。私の背後に何時までも影になり連なる道も今では私自身となってしまった。

半径１メートル

それがあなたの世界。そこにあなたは雑多にあらゆるものを詰め込む事に夢中で、気が付いたら身動きが取れなくなる。半径１メートルそこから先はあなたの預かり知らぬ世界。 私とあなたは同じ愛を持っている。ただ方向が違うだけ。あなたが向かっているのは常に半径１メートルの世界。私は半径１メートルの世界で孤独から世界に憧れる。翼を持たぬ私には空想と想像がある。空を自由に飛ぶ鳥より速く世界を旅する。半径１メートルから西へ東へ、過去と未来へと自由に旅する。半径１メートルの世界、そこは私の住みか。私の手足が自由に動かせるだけの小さな世界から翼広げ世界を抱きしめる半径１メートルの小さな空間。旅に疲れた心をまん丸に丸めて夢の中にくつろぐ。幼子のように愛に包まれ、生まれたあの日のままに何も持たない。

引き裂かれた声

二つの異なる声が聞こえる。一つは人間の言葉としての記号。もう一つは妙に湿った沼地から泡立つようにぷかり浮かぶ声。記号は美しい連なりになり、しきりに甘い文句を囁く。 どちらがあなたの声。右と左。 どちらに行こうか。あなたの本当の思いそこに行こう。 自分さえ良ければ、それもいい。あなただけが幸福になればいい。ほんの短い間あなたの願いは叶うでしょう。叶ったとしてもあなたは幸福を知る事はない。そこにはないのだから。

好意

困っている時頂いた好意は嬉しいが、余りものの好意は、あっても無くてもどっちでもいいかな。 そんなもんだよ。タイミングがある。地獄に仏。 気分が滅入っている時、小さな幸せが舞い込んでくる。 そう言うのを幸せって言うんだよ。ものだらけの現代は豊かさに慣れきって、あって当たり前、なけりゃ不満顔。 私にとっては無くて当たり前が多い。そんな生活に慣れているから、ささやかな事も喜びになる。

あなたと語りあかそう

悩みや苦しみを誰かに言ったとこで愚痴になるだけ。いつも笑っていなさい、そんな声が聞こえる。幼い日の私が自分に誓った言葉は今では神の声に等しく聞こえる。幸せは笑顔の後からついてくる。 そんな気がして、でも、時には泣きたい。一人になると悲しい顔の私がいる。知っているのはあなただけ。あなたと私の秘密。 私の心を知るのはあなたと私だけ。 共犯者なんだ。あなたと私は。 おやすみ。明日は又笑顔で生きて行くから。