傍らを通り過ぎ

あ～この人だ。無言で語る心がある。言葉なんて本当に不必要に思う。心ほどには何も語れはしない。打ち寄せる波のように心が寄せる。言葉では語れない胸の内ほど強い思いはありゃしない。その思いだけで私はいい。

自覚

ただ逃げるだけでは駄目なんだ。逃げる事を悪いとは思わないが闇雲に逃げるのでは無く何から逃げたいのかが分かってなけりゃ同じ事を繰り返しただ悪戯に同じ場所をぐるぐる回っているだけだ。

どうしたもんか

私は時々この男にどうしょうもない怒りを覚える。今更昔の話などしたくもないし、話したとて虚しいだけだ。どんなに下らない事でもこの男と過ごした時間に比べれば何らかの意味はある。何一つ、心に残ってる思い出は無く、時折怒りだけが込み上げてくる。それはこの男に対してと言うより自分にだろう。 愛する事を知らないのだと気付いたのは随分後になってだった。愛する事を知らない男に愛されたくて、自分を捨てた愚かさ。いくら与えても成長も変化もない男との毎日は退屈でしかない。しかしこの男が私にある方向を教えてくれたのも事実だ。 生きる事の意味を。

信じる

私が神を信じたように人間を信じるならそれがあなたの言っていた人間の中の神なのでしょう。何度も心細くなる度に私はあなたの住む内奥へと帰りました。その度にあなたは私に言われました。 私の所に時折帰ってくるのはいいが、おまえの神は人間の中にあるのだと。 未だに私は人間の中の神が一体なんであるのかは確信はしていないのですが、あなたに似た感覚を感じる事があります。それは好意です。人間にしか持ち得ない好意にあなたを感じているのです。

求めよさらば与えられん

言葉の丸暗記なのか、心のどこかに引っかかっていたのか定かではない。経験の後から思い出す言葉がある。こう言う意味だったのかと。鶏が先か卵が先か。私は経験が常に先だっている。だからだろう、危険物を避け上手く立ち回る事が出来ずに苦い思いも多々した。こう言うと過去形で今後同じ思いをしないとは言い切れない。 しょうがないなぁと言うのが私に対する気持ちだ。長年生きて来て損と得くらいの区別は出来るのだが、偏った見方をするなら損ばかりしているのだろう。視点を変えると、経験として得をしているが、その度に払う授業料がチッと高い。 生きながら学ぶのが最も私には向いている。歩きながら考えるとでも言おうか。ただ一つの目的の為に時間を使うより、時が与える課題を解き明かしながら、辿り着くのがいい。その道すがらチラッと見たものに妙に懐かしさを感じたりする。記憶は思い出と手を携え豊かになる。そう思うから、私はやはり歩きながら考え学ぶ道を取る。